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Final Stage 第7章:愛をするということ4

Auteur: 相沢蒼依
last update Date de publication: 2025-12-19 11:34:30

***

襖を開けると妙に冴えた空気が、客間の中に広がっていた。そこを穂高さんとふたり、手を繋いだまま中に入る。

襖に手をかけた瞬間、握りしめている手を解かれると思ったのに、ぎゅっと力を入れてくれた。まるで穂高さんの手のひらから、勇気を貰った気がして嬉しかった。お蔭で、勢いよく襖を開けることができたんだ。

「お久しぶりです。お父さん、お母さん」

どちらともなく手を離して用意されている座布団に座らず、その場に正座して目の前にいる両親を見たら、唖然とした表情を浮かべていた。

(――この状況で、驚かないほうがおかしいだろうな)

「この方が俺とお付き合いしている、井上穂高さんです」

「お初にお目にかかります。千秋さんとお付き合いさせて戴いている井上と申します。職業は漁師で、現在は北海道の――」

「ちょっと待ちなさい! 何をふざけた真似をしているんだ? ウチの会社に入りたくないからと、こんなことをしてまで反抗するなんて、何を考えているんだっ」

烈火のごとく怒りだすお父さんに、隣にいるお母さんは小さなため息をついていた。

「お父さん、落ち着いて話を聞いて下さい。ふざけてなんていません、俺た
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  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで10

    「竜馬、俺を愛してくれてありがとう」 背筋をぴんと伸ばした小林が、自分に向かい合う形でいきなり語り出した。制服の裾を引っ張ったりスボンを意味なく叩いてから、慌てて脇正面を向く。 目の前にいる小林は正直格好いいとは言えなかったが、天井からのスポットライトが顔に陰影を与えている関係で、二割増しにイケメンに見えた。「おまえが傍にいるだけで強くなれることを、何度も実感させられた。ここぞというときに手助けされるせいなのかもしれないが、それでも俺は前よりも強くなれたと信じているんだ」「小林さん……」「これからも変わらず竜馬、おまえを愛していく。永遠に誓うから、ずっと傍にいてくれ」『はい』と一言すぐに返事をしたいのに、うまく言葉にならない。嬉しい気持ちがこみ上げてきて、自然とそれが涙になって表れてしまった。「傷ついた俺の前に現れたのがおまえで良かったと思う。傷ついた過去があるからこそ、包み込むような優しさに救われた。出逢ってくれてありがとう」 浜辺で指輪を渡されたときは自分からプロボーズしてしまったというのに、それを帳消しにするような言葉を告げる小林に、ずっと頭が上がらない。「心一郎さん、俺は……ぉ、俺もずっと愛していきます。傍にいさせてくださぃ……」 涙を拭いながらやっと口にしたセリフを、小林はきちんと聞くことができただろうか――心根の優しい大好きな小林の名前を呼ぶことができただけで、嬉しくて堪らない。「ふふっ、誓いの愛の言葉をしっかりとこの耳に頂戴しました。私がふたりの証人になってあげる。お幸せに!」 安藤の声に顔を上げて横を向いたときには、扉の向こう側に消えていた。「さて、ウルサイのが消えたことだし指輪の交換するか」 祭壇に置いてある指輪のケースから中身を取り出し、小林は竜馬に手を差し伸べる。目の前にある大きな手に、そっと左手を差し出した。 「おっ、今度はサイズがぴったりだな」 スムーズにはめられる指輪を見て、子どものようにはしゃぐ小林を窘めたかったけど、それをせずにじっと薬指を眺める。 緩すぎずキツすぎることのない光り輝くプラチナの指輪は、まるでふたりの関係を表わしているみたいだ。

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで9

    「竜馬ここは手を繋ぐよりも、腕を組んだ方がそれなりに見えるかもしれないぞ」 ちょっとだけ得意げな顔した小林が、掴めと言わんばかりに左腕を躰に当ててきたので、言うとおりにちまっと腕を通してやった。そのとき背後から『ぷっ!』という吹き出す声がチャペルの中に響いた。 ふたり揃って声がした方を向いたら、口元を押さえた安藤と目が合う。「小林ってば偉そうな態度してるけど、駄々っ子みたいに見えるわよ」「うっせぇな。黙って見てろよ」 意気込んでいる小林を横目に、こっそりとため息をついた。 高級ホテルにある立派なチャペルとは相反する自分たちの姿――小林はヨレヨレのスーツ姿で、竜馬は会社で支給されている仕事着に片手には帽子を握りしめている状態。 こんなふたりのために使用後ではあるものの、チャペルを貸し与えてくださった古くからの友人に悪態をつくことができるなんて……。不器用な人だから、ひとつのことにしか集中できないのが分かっているけれど、もう少しだけ配慮を覚えてほしい。 じとーっとした視線を小林に送り続けると、やっとそれに気がついてハッとした表情になった。「……小林さん」 いつもより低い声色に何かを悟ったのか、片側の頬をピクッと引きつらせながら前を向いた。「そ、そろそろ行くぞ」「はい」 耳に聞こえてくるパイプオルガンの音色に合わせるように、ふたり揃って一歩一歩祭壇に向かって進んでいく。バージンロードを踏みしめるたびに、感極まってきて涙腺が緩みそうになった。 その理由のひとつは流れてくる曲に合わせて、頭の中に歌詞が流れるせいだった。 互いに傷ついた過去があるからこそ、やけにそれが胸に染み入るんだ。 祭壇前に辿り着いたら、組んでいた腕を解いてきたのでそれに倣って直立した。 牧師さんがいないこの状況下で、これから小林はどんなことを行うつもりだろうかと内心心配していたら、ポケットに忍ばせていたえんじ色の指輪が入ったケースを取り出して祭壇の上に置く。 その行動で指輪の交換をするんだと判断し、手に持っていた帽子を祭壇の隅っこに置かせてもらった。

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで8

    *** お客様駐車場に車を停め、エンジンを切ってシートベルトを外してから車の外に出ると、早くしろといわんばかりに小林に腕を掴まれた。ふたりでホテルに向かってひたすら疾走する。 竜馬が裏道を使ったお蔭で、約束の時間よりも8分ほど早く到着したというのに、そんなこと知ったこっちゃないという感じで慌てふためく恋人の背中が、なぜだか愛おしく見えた。 ホテルの中に足を踏み入れた途端に走るのをやめて、急ぎ足で二階へと続く階段を駆け上った。帽子を被ったまま豪勢な場所に入ることに躊躇いを感じたので、被っていた帽子を慌てて小脇に挟めた状態で、小林に引っ張られた。 されるがままでいたら、廊下を突き進む小林の足がピタリと止まった。「時間ギリギリって昔と変わらないわねー。疲れた顔したオッサンとイケメンの組み合わせが、すっごく似合わない!」 突き当りにある大きな扉の前にいる女性が、小林に指を差しながら声を立てて大笑いした。「行き遅れた女の笑い声が下品すぎて、疲れが余計に増えたんだ。人の顔見て笑うんじゃねぇよ!」(この人、○○グランドホテルのホームページで見た安藤 薫さんじゃないか!) 竜馬から手を放して両手の腰に当てながら苛立った様子で安藤に近付いていく小林の後ろを、微妙な表情でついて行くしかない。「今さっきここで式を終えたばかりだから、雰囲気が漂っていると思うわ。厳粛なムードもバッチリだと思う」 面白くない顔している小林を見ながら、柔らかくほほ笑んで仲の様子を教えてくれた安藤に、竜馬はぺこりと頭を下げた。「あの、ありがとうございます。ホテルの支配人さん自ら、こんなことをさせてしまって……」「へぇ……。うっかりしている小林の相手らしい、しっかりした人じゃないの。良かったわね」「茶化すんじゃねぇって。竜馬もこんな奴に頭を下げることはないんだ、いい加減にしろよ」 そんな文句を言った小林の頬は赤くなっていて、安藤とふたりでその姿を見て笑ってしまった。「私からふたりへのプレゼント第二弾として、チャペルで流れている曲をプレゼントしてあげるわ。それを聞きながら、永遠を誓ってくださいませ」 安藤が両手で大きな扉を開けると、奥の方にある祭壇が目に留まった。オフホワイトを基調としたあたたかな空間と参列者が座る椅子がバージンロードを挟むようにたくさん置かれていたのだけれど――

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで7

    *** 午後からの配送を終え、やれやれと思いながら会社に戻った竜馬の目の前に、いきなり小林が現れた。「行くぞ!」「は? えっ!?」 わけが分からないまま小林が竜馬の腕を掴み、強引に外へと連れ出す。そのまま従業員が利用している駐車場に向かって、小林が乗っている白のセダンの助手席に押し込められた。呆然とした竜馬を尻目に、何事もなかったかのように小林は運転席に座るとエンジンをかけた。「もう、いきなり何なんですか?」 車内に響くエンジン音をかき消すような竜馬の叱責に、ちょっとだけ肩を竦める。「怒るなよ、時間制限があって慌ててたんだ。それよりもお前、今日はいつもより戻りが遅かったじゃないか?」「会社のすぐそばの交差点で工事があって、片側一車線通行だったんですよ」「俺が戻ったときにはやってなかったのに。タイミングが悪いな……」 チッと舌打ちして、ハンドルを叩く。「小林さん、質問に答えてくださいよ。出会い頭でいきなりの拉致に時間制限なんて、話が全然見えません」 胸の前で両腕を組み、横目で小林を睨んでやった。そんな竜馬の視線を受け、ありありとバツの悪い顔をする。「古くからの知人に頼み込んで、ホテルのチャペルを貸し切りにしてもらった。時間は午後7時半からの20分間だけ……」「チャペルの貸し切り。手元に指輪がないというのに、これまた先走りましたね」「……用意できてるって言ったら、一緒に行ってくれるか?」 言うなりジャケットのポケットからえんじ色の小箱を出して、中が見えるように開く。そこには、ふたつの指輪が仲良く並んで光っていた。「何で用意されて……。だって出来上がりは来週末の予定だったのに」「お前が宝石店で俺に噛みついただろ。一泡吹かせてやろうと、近くにいた店員にちょっとだけ相談したんだ」「いつの間に?」「竜馬が指輪のサイズを測ってる最中、こっそりとな。その人がなんと店長さんで、一部始終を見ていた経緯も関係して俺の話に乗ってくれた」 得意げに話す小林には悪いが憐れみを感じた店長さんの計らいは竜馬にとって、あまり気持ちのいいものではなかった。それはお揃いの指輪の出来上がりを楽しみに、指折り数えて待っていたせいなのだが――「しっかし、幹線道路の片側交互通行は厳しいな。時間が間に合わないじゃないか」 手にした指輪の箱をポケットに戻し、搭載され

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで6

    竜馬がお昼ご飯を食べに戻ると、事務所に小林の姿はなかった。(――くそっ、やっぱり逃げられた!) 被っていた帽子を脱いで、小林の傍で仕事をしていたおばさんに話しかけてみる。「お疲れ様です。今日は朝から何だか忙しなかったですね」「竜馬くんもお疲れ様! 小林さんの知り合いから、大口の仕事が入った関係でちょっとね。だけど店舗の売り上げに繋がることだから、忙しくてもへっちゃらよ」「そうだったんですか。それで小林さんはどこへ?」 店の外に促し、トラックの荷台で訊ねたときは「ちょっと、な……」のひとことのみで、詳しく説明してくれなかった。なぜ大口の仕事を隠したんだろうかと顎に手を当てて考える竜馬に、おばさんが朗らかに口を開いた。「その大口の仕事をくれた知人と一緒に、ランチしてくるって言ってたわ。仕事の打ち合わせも兼ねているから、2時間ほど戻らないそうよ。今まで仕事でランチするなんてしたことがないから、ちょっとだけ不思議に思ったの」「そうですね。珍しいというか……」「もしかして、婚活かもよ?」 告げられた言葉に、自分の笑顔が引きつるのが分かった。「えっと、そう思うのはどうしてでしょうか?」 恋人に黙って婚活するなんて絶対にありえないことなのに、そう考える根拠が知りたかった。するとおばさんは席を立って小林のデスクに移動し、デスクマットに挟まれていた名刺を取り出して竜馬の前に差し出してきた。引き寄せられるように、表面に印刷されている文字を読む。「○○グランドホテル支配人の安藤 薫さん? 随分と大きなホテルの知り合いなんですね」「うふふ。わたしたち同僚と顔を突き合わせてお昼を食べるより、綺麗な女性と一緒のほうが美味しくお昼を食べられるんじゃないかしら」 竜馬に見せた名刺を素早く元に戻すと、自分の使っているパソコンに何かを打ち込み、その画面を竜馬に見えるように向きを変えてくれた。画面は○○グランドホテルのホームページで、そこに映っていたのは支配人として顔写真が出ている、柔らかく微笑んだ安藤 薫さんの姿だった。(小林さんと同じくらいの年齢に見えなくもない。女性で支配人って、すごい人なんじゃないのか!?) 問い詰めようとした恋人が目の前にいないだけでも心が沈んでいるのに、竜馬の知らない事実を突きつけられたせいで、気持ちが暗いところへどんどん沈み込んでいく。

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで5

    (今日は朝から忙しない感じだな、小林さん) 月はじめや月末じゃないのにも関わらず、なぜだか焦って仕事をこなしているように竜馬の目には映った。小林のあたふたしている行動のせいで、傍で仕事をしている事務のバイトのコやおばちゃんまでもが流されるように仕事をしている始末―― そんな姿を横目で捉えながら配達で使うトラックの鍵を手にし、帽子をかぶって小林のデスクに赴いた。必死に仕事をしていた小林だったが恋人の存在に気がつき、微笑みながら顔を上げる。「これから配達か、気をつけて行けよな」「はい。あの、その前にちょっとだけいいですか?」 竜馬は顎で扉を指し示し、一緒に外に出るように促した。 忙しいのになと呟きながらも、先に出ていく背中を追いかけた小林。たくさん駐車されているトラックの荷台の隙間へと誘導した。「今日は何か、前倒ししてやらなきゃならない仕事でもあるんですか?」 小林の仕事ぶりから想像したことを訊ねてみたら、目を見開いて固まる。ちょっとだけ焦りの見える表情は、らしくない感じだ。「ちょっと、な……」 竜馬の視線を外し、斜め上を見ながら口を開いた。「そんなに大変なら、配達が終わってからでも手伝いますよ?」「それまでに、絶対終わらせる!」「無理しちゃって。小林さんがそんなんだから、周りが気を遣っているのが分からないんですか?」「あ、まあ……。申し訳ないと思ってる」 両手を意味なくにぎにぎして落ち着きなく視線を彷徨わせる様子で、頭の中に疑問符が浮かんだ。この感じはまるで、あのときのシチュエーション――浜辺で指輪を貰ったときにしていた、小林の態度そのものだった。「……小林さん、何を隠しているんですか?」「何も隠してなんかねぇよ、怖い顔して睨んでくるなって」 口元を思いっきり引きつらせながら苦笑いを浮かべる姿で、隠し事をしていることが明白になった。「そんなおっかない顔をしてると、お客様に不審がられるぞ。ほらほら出発の時間だ」 自分のしている腕時計を目の前に掲げて、わざわざ時間を教えて追い払おうとする小林の無駄な努力に、竜馬は渋々乗っかることにした。「じゃあ俺がお昼に戻ったら、この話の続きをしますからね!」「ぉ、おう! 気をつけて行けよな」 小林の隠し事を暴く宣言をしっかりしてからトラックに乗り込み、エンジンをかける。それなのにどこか余裕

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下13

    「千秋の職場なら、ここから歩いて十分くらいのところにあるんですよ」 並んで歩きながら告げると、あからさまに顔を横に背けられてしまった。 こんな態度をとられるのは、いた仕方ない。前回千秋のことをかっさらった状態で実家を出てきたのだから。「小さな島ですが、農業も漁業もそれなりに盛んなんです。ですから、千秋の仕事が大変みたいです」「仕事をしているところを見ていないというのに、どうして大変だっていうのが分かるんだ?」 いきなりなされた疑問に、苦笑を浮かべた。何はともあれ、食いついてくれて良かった。「確か従業員の五名で、三百五十人分の書類を捌かなければならないそうですよ。これって相当大変で

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  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   想いを重ねる夜2

    *** 自転車を必死に漕いで、漁協の倉庫に向かった。見覚えのある建物が見えてきた瞬間から、言い知れぬ不安が胸を支配する。 穂高さんが俺を攫うように抱きかかえながら、実家を出たのが3月――そこから2カ月しか経っていないからこそ、お父さんとは顔を合わせにくい。こんなに早く逢うことになろうとは……。 俺たちがどんな場所で生活をしているのか親として気になったんだろうけど、わざわざ俺に連絡までして、自分が来島したのを伝えるなんて思いもしなかった。 しかも電話の内容――勝手に見て帰るから顔を出さなくていいと一方的に告げるなり、さっさと切っちゃうあの態度。それなら、最初から連絡しなくてもいいことな

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-28
  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下8

    *** 穂高さんが全快して仕事に行くようになってから、いつもの日常が取り戻された。 でも一部だけ、変わったことがあったんだ。「ただいま、千秋っ!!」 扉を開け放ちながら大きな声で家の中に入ってくる穂高さんに、食器を手にしたまま振り返る。ちょうど朝ご飯を食べ終えて、台所に洗い物を運ぼうとしていた矢先だった。 以前は俺が農協に行く直前に帰って来ていたのを、一時的に30分だけ早めに帰れるようにしてほしいと、穂高さんが船長さんに頭を下げて頼み込んだという。 兄弟じゃなく恋人というのを知られたからこそ井上のヤツに強く頼まれてしまったと、船長さんが苦笑いしてあとから教えてくれた。 今回のこ

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下10

    「ううん、大丈夫です。ちゃんと仕事をしていますから」 笑いを堪えながら告げると、うーんと伸びをするような声を出してから小さく笑う。「じゃあ寂しくなって、電話してくれたのだろうか?」 ちょっとだけ緊張している俺を慮って冗談を言ってしまう恋人に、ちゃんと告げることができるだろうか。「……あのね、穂高さん。ついさっき職場に、お父さんから電話が着たんだ」「お父さんから?」 それまで漂わせていた雰囲気が、声色とともに変わっていく。「午前の便のフェリーに乗ってるみたいで、直ぐに帰るから顔を出さなくていいって言われてしまって……。でも今日は俺、どうしても仕事が抜けられないんです」「顔を出

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